日本教育経営学会研究推進委員会:公開研究会2019 参加報告

記事概要:日本教育経営学会研究推進委員会:公開研究会2019 参加報告

開催日時:2019年12月26日

報告者:宮田 弘一(広島大学大学院博士課程後期)

12月26日(木)
著者と著書を語る 13:00~14:40
『学校組織におけるミドル・アップダウン・マネジメント』ハーベスト社(2018)
担当:畑中大路先生(長崎大学)

 本書はM-GTAモノグラフシリーズ第4巻として刊行されたものである。その目的は、次のとおりである。M-GTAは研究会会員のみならず、それ以外の多くの研究者にも活用されるが、M-GTAの研究方法、分析方法としての理解が充分でない例も見られることや、最も重要である研究結果の実践への応用も未だ充分に拓かれていない課題があるとする。そこで、M-GTAの分析例を示すとともにその成果を実践的活用までを視野に入れた研究例の提示を行うこと、であった。

 本書の目的に対し、講師である畑中氏はまずは、M-GTAを用いた第4章および第5章の概略を示すことで、M-GTAの説明を行った。具体的には、学校組織におけるミドルクラス(小学校における主任クラス)が自分自身の持つアイデア実現へ向けたプロセスを周囲の[巻き込み]軸に示した。これにより、学校経営におけるM-GTAの可能性を示したのであった。筆者自身は自分自身の研究において、M-GTAを使用したことから、発表者の概念および結果図の導出過程に最も関心があったのだが、参加者の方々のM-GTAそれ自体の共通認識がなく、方法論の妥当性に関する議論はあまり深まらなかった。

 一方、内容については教育経営学会ということもあり、学校組織における「トップ」「ミドル」「ボトム」は誰かという問いに参加者の関心が集まった。発表者も職位に着目することで「ミドル」としたが、実態は「トップ」「ボトム」と可変的であり、どのように位置づけたらいいのか、今でも悩ましいと吐露していた。また、「ミドル」である主任クラスの教員が校長等の「トップ」や後輩等の「ボトム」に働きかける様を、発表者が「ミドル・アップダウン・マネジメント」と一般的な語句を使用したことにより、研究の目的が曖昧になるのではないかや、当初の問題意識がM-GTAを用いて一般化することにより希薄になったのではないか、という指摘が参加者からなされた。さらに研究者が抱える当初の問題意識の重要性が参加者から指摘された。

著者と著書を語る 15:00~16:40
『戦後学校経営の軌跡と課題』教育開発研究所(1984)
担当:中留武昭先生(九州大学名誉教授)

  課題図書は文献調査から、臨教審設置前後の戦後35年の教育史を三期に分けて、各時期ごとに社会的・経済的・行政的制約下にどのような学校経営が実際に展開され、そこにどのような課題が残されているのかを明らかにしたものである。具体的区分は、第1期は「地教法」制定までの1956年、第2期は中教審答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」が出された1971年まで、第3期は1982年までを扱っている。

 具体的な講義は、課題図書に即して知見を整理するといったものではなく、教育経営学というディシプリンに依拠しながらも、中留氏が教育経営・カリキュラムマネジメントに取り組んできた教育研究者としての経験を披露されたものであった。なかでも、中留氏が初めて教員として勤務されたソニー学園のエピソードが豊かに語られ、その経験が自身の研究関心(教育経営からカリキュラムマネジメントに至る)に向かわせる源であったという。また、歴史研究は地味だが、非常に有用な基礎研究であるとし、その重要性を発表者は力説されていた。