第18回公開研究会『教育経済学と因果推論』開催報告

記事概要:第18回公開研究会『教育経済学と因果推論』開催報告

開催日時:2019年12月16日(月)

開催場所:広島大学東京オフィス408号室

報告者:樊 怡舟(広島大学大学院博士課程後期)

2019年12月16日(月),広島大学東京オフィスにて,第18回公開研究会『教育経済学と因果推論』が開催された。村澤昌崇副センター長による趣旨説明及び講師紹介の後、橋野晶寛先生(東京大学大学院教育学研究科)が登壇して、教育経済学及び因果推論を中心に、興味深い発表をくださった。

橋野先生はまず、教育経済学の歴史を振り返って、学問として「教育経済学」の起源、発展及び動向を紹介した。ミクロ経済学の人的資本論から始まった教育経済学は、1980年代に日本に導入していたが、長らく労働経済学の一部として扱われてきたという。そして主にアメリカの研究動向を注目すると、教育経済学の専門誌、そしてその隣接分野である労働経済学・公共経済学の専門誌などにおいて、教育経済学関連の研究は急激に増加してきていることが分かる。特に経済学研究全体の動向と同調して、教育経済学研究の中身も実証研究へシフトしてきているという。

次に、橋野先生は近年実証研究の大きな動向の一つである因果推論について解説をしてくださった。因果推論は内生性問題への対処として発展されてきたものである。もともと内生性問題は経済学特有の問題ではないので、根源的に言うと因果推論も経済学特有の手法ではないと思われるのだが、教育学心理学の計量的実証研究者の間で内生性問題への重視が薄かったという。そして、橋野先生は欠落変数の存在、双方向因果、処置変数の測定誤差等、内生性問題を起こりうる原因をまとめて、そのうえで、内生性が原因のモデル誤測定をシミュレーションで見せて、またEvidence-Baseの流れを踏まえて社会科学にとって内生性問題の重大さを説明した。そのうえで、橋野先生はそういった内生性問題に対処するために開発された手法のいくつか(パネル固定効果モデル、差分の差分法、回帰不連続デザイン、操作変数法)を紹介してくださった。中でも主に操作変数法を中心に、その基本的な原理及び注意点について詳しく説明した。

最後に、そういった観察データにおける因果推論の手法が急速に普及してきたが、こうした手法の教育分野へ適用した研究はその理解に経済学の知識は殆ど要求されないことを橋野先生は指摘した。そのうえで、橋野先生は、経済学の部外者が向き合うべき「教育経済学」の経済学的要素がそういった手法に局限すべきなのかという風に問題提起した。特に教育分野において、観察データの因果推論として標準化された手法が適用できるというデータがそもそも非常に限定的であり、また政策研究としての有意味性のために注目すべき異質性や外的妥当性の問題も、標準化された手法のむやみな誤用によって関心の外に置かれてしまうリスクもある。そういう意味で、観察データにおける因果推論の手法だけではなく、理論モデルに基づいた方法こそ必要であり、そこに経済学を見出すべきと橋野先生が主張した。