お祝いコメント/田中 義郎

元客員研究員、桜美林大学副学長・大学院教授
田中 義郎

「未来の大学は何を考え、何を行うか?」

田中 義郎 (元客員研究員、桜美林大学副学長・大学院教授)

 

 高等教育研究開発センター創立50年、おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。1972年当時、我が国の4年制大学進学率は

21.6%、アメリカは34%でした。1973年にUCバークレーのマーチン・トロウ教授は大学教育のユニバーサル化段階への道筋を論じました。

当時、ちょうどマス化段階への移行期にありました。日本の大学進学率は上昇し、1997年に34%、2021年にユニバーサル化段階の54.4%と

なりました。私は、1979年から85年までUCLAで、バートン・クラーク、アレクサンダー・アスティン、ジョン・ホーキンス等の高等教育、

比較高等教育の教授たちの指導を受けていました。トロウ教授もUCLAに頻繁に来られ、クラーク教授等と私たち学生も参加できる開放的な

共同研究セミナーを開いておられました。テーマは、トロウ理論、量的拡大や大学システムの国際比較。当時、日本から広大大教センター

(当時の呼称)の喜多村和之教授をはじめ多くの高等教育研究者が来訪され、RAをしていた私は恩師たちの指示でお迎えさせて頂いたのが

契機となり、帰国後は、私立大学教員として大教センターを度々訪ね、客員研究員(1991-95)としても多くの学びをさせて頂きました。

 それから30余年が経過しました。今日、世界は転換期にあり、高等教育での関心事は日々変化しています。それは、広義の高等教育:中等

後教育(Post-secondary Education)での顕著な機能分化と行動指針の多様化でしょう。伝統型大学、大衆化適応型高等教育機関、高等職能

訓練型中等後教育機関という大きな三区分が現実化する中で、それぞれの高等教育機関に期待される社会的役割も変化しています。特に産業

社会への貢献が強調される傾向にあり、高大接続以上に大社(大学―産業界)接続に政策的力点が置かれているように思えます。大学の未来を

考えるとき、私たちは、未来の大学の役割への期待を検討の重要な視点に加えなければなりません。高等教育の昨今の関心テーマの傾向は、

1)どこからでも学ぶ

2)講義をアクティブラーニングに置き換える

3)変化する世界に関連し続ける教育スキル

4)ハイステークス試験の代わりに形成的評価を使用する

といった具合ですし、実際、非伝統的でデジタルな学生の数は増加し続けており、教育コストの増大に対して価格を下げることは困難さを

増しているし、新しいパラダイムにおいては、オンラインで提供される卒業証書よりも伝統的な学位を好む雇用主の数は急速に減少している

という国際調査が示され、また、学生の経験をいかにグローバル化するか、その価格、コスト、結果などを社会的に正当化しうる説明責任

など、大学への要望や期待は多様で複雑です。今後ますます発展を続ける広島大学高等教育研究開発センターの活動に期待しています。