お祝いコメント/有本 章

広島大学 名誉教授、兵庫大学 学長顧問、高等教育研究センター長 教授
有本 章

 

 

高等教育研究開発センター50周年記念を祝す

有本 章 (広島大学 名誉教授、兵庫大学 学長顧問、高等教育研究センター長 教授)

 

 

 貴高等教育研究開発センター(以下、センターと略)の50周年記念日の朗報に接し感無量であり謹んでお祝辞を申し上げる。センター奉職

時代は大学問題調査室助手(1970-71)を含め、大学教育研究センター及び高等教育研究センター教授(1989-2007、第8代・10代センター長

含む)の18年間、定年退職後の15年間(名誉教授)を含めて50年間のうち33年間(66%)はセンター一員である。その点、私は現在でも半分

身内に該当するから、今後100周年の飛躍へ向けて再出発する本日の節目に際して、当事者しか知らない点を含めるなど、これまでの経験を

踏まえて忌憚のない感想と希望を述べさせて戴くことにしたいと思う。

 

 第1に、いわばat & for論争がある。これは約半世紀前にウィリアム・カミングス氏が提起して現在まで連綿と持続してきた問題であり、

センターは広大に所在する機関なのか、広大のための機関なのかを巡る論争である。大学からの期待が大きいため幾度か危機的状況に直面した

ものの、牟田学長がAdvanced Research Centerと名称を冠し「特別研究センター」に認定した結果、地位が安定して心おきなくCOL

(COE)の発展を意図する運びになった。その論拠としては、文科省の「21世紀COEプログラム」採択(2004)によって高等教育研究機関と

して全国で唯一認定されたことが重要であったと見做される。

 第2に、第1と関連した名称変更問題がある。「大学教育研究センター」から「高等教育研究開発センター」への変更がなされた時、「開発」

重視の改革に対して、私は「研究」重視を主張して日本語は変えても英語は変えず、内外に通用していたRIHEを踏襲した。

 第3に、全国に先駆けて設置した高等教育研究の講座「比較高等教育論」で高等教育研究の博士号授与に先鞭を着けた後にも、講座を創設

して多くの博士号取得者を輩出した。

 第4に、高等教育研究の国際交流に主導性を発揮し、つとに内外から十分評価される実績を上げた。この潮流に乗って私のセンター長時代

では新たな国際交流を開始し、大学教授職国際比較研究(1992-現在)(カーネギー、CAP、APIKSの各調査研究)、6か国高等教育国際研究

(1994-2004)などを実施した。また、発起人に呼びかけて日本高等教育学会を立ち上げ、第1回大会を開催し(1998)、さらに他の国々と

協力してHERA(アジア高等教育学会)を立ち上げ、第1回年次大会を開催した(2014)。

 第5に、各種出版物によって、高等教育研究の成果を国内外へと発信し、世界のリサーチ・ネットワーク形成に貢献するとともに、国際共同

研究の充実に努めた。例えば、『大学論集』(1973年)はセンター設置時から特に横尾教授の肝いりで出版を開始、現在までに54集の出版を

重ねた。私がセンター長時代に発刊した英文誌『Higher Education Forum』は現在では国際的に評価されていてSCOPUS水準の雑誌に発展を

遂げた。

 第6に、センターは、喜多村教授の方針を私が継承し、スタッフのインブリーディングを定員の50%以下に抑制する政策を固守してきた。

日本では困難な政策であるアウトブリーディングに徹した結果、センターが組織的疲弊を超克し、活力を維持し、曲りなりにも50周年に到達

したのではないかと考えている。

 第7に、『コリーグ』誌は考案者の馬越徹氏(故人)のアイデア通り、センター内外の研究者や協力者を有機的に繋ぐネットワークの触媒と

して重要な機能を果たしている。

 

 以上、経験に即してセンター発展の経緯に言及したが、陰陽両面が存在している事柄の中には、必ずしも順風満帆の発展があったとは

言えないのは確かである。最後に内外の皆様のご指導ご鞭撻を賜って100周年に向けて更なる発展を期待したいと切望する次第である。