因果推論集会@愛媛大学の報告

開催日時:2024年11月5-7日

開催場所:愛媛大学

報告者:中尾 走(愛媛大学:高教研OB)

2024年11月5日から7日にかけて,統計的因果推論に関する研究集会「統計的因果推論研究の最先端」が愛媛大学城北キャンパスで開催されました。本研究集会は,愛媛大学次世代人材育成拠点と広島大学高等教育研究開発センターが主催し,統計的因果推論に関する最新の研究成果や応用についての活発な議論が行われ,当日は100名近くの参加者が集まりました。 初日には,非ガウス性と非線形性に基づく因果探索や,割合ベースで考えることが可能な感度分析手法の提案などがありました。また,十分原因モデルという医学的因果メカニズムを考えるモデルの紹介,個別化医療戦略における効果の異質性を考慮したモデル,疾病の発生を一人減らすために治療が必要な患者数(The Number Needed to Treat :NNT)という指標に関する新たな議論についてのご講演があり,因果探索から因果推論の応用まで幅広い話題に関するご講演が行われました。 2日目は,午前中に社会科学の因果推論として,補助実験を用いた因果効果の識別やベイジアンアプローチによる感度分析手法,さらに因果プロセスの圏論的モデリングといった哲学的な側面からのご講演もありました。午後には,原因の確率に関する因果推論の理論研究と回帰不連続デザインの欠測値への対応,CBPSの近似的アプローチといった既存手法に対する異なるアプローチからのご講演があり,統計的因果推論の応用研究者にも親和的な話題もあり,非常に興味深かったです。 最終日は,時間依存性交絡の近似的なロバスト推定方法や連続量が処置変数の因果推論についてのご講演がありました。高等教育研究では,処置変数が連続量の場合が多々あり,非常に示唆に富んだご講演でありました。また,佐藤先生の「因果は巡るー私的因果推論史」と題したご講演では,統計基礎教育における因果推論の重要性が強調され,「初等統計教育から因果推論を導入する必要がある」とのメッセージが発信されました。全体を通して,質疑応答の時間が足りないほど活発なディスカッションが行われ,非常に有意義な研究集会となりました。

主催・運営・運営支援:
中尾走(愛媛大学)、樊怡舟(広島大学:高教研OB)、野内玲(広島大学)、康凱翔(広島県立大学:高教研OB)、宮田弘一(静岡産業大学:高教研OB)、松宮慎治(信州大学:高教研OB)、林川友貴(広島大学)、井芹俊太郎(神田外語大学)、村澤昌崇(広島大学)

本研究集会は以下の研究助成を受けて開催されました:
JP22K18591 (研究代表者:村澤昌崇「社会科学の計量分析再考:“説明”の評価と解釈に関する数理的開発と検証」)
JP23K12797 (研究代表者:樊怡舟「数理モデルに基づく「学修成果」指標の開発と応用」)
JP23K12800 (研究代表者:中尾走「大学の進路選択に関する規定要因分析:コンジョイント実験を用いて」)
JP24K00387(研究代表者:村澤昌崇「大学生の非学習型活動・逸脱行動の可視化:量的質的方法の応用開発と倫理的課題の解決」)