記事概要:第50回 研究員集会「激動期の高等教育:将来像と課題」開催報告
開催日時:2022年11月25日
開催場所:広島大学 学士会館2階 レセプションホール(対面)/zoom(オンライン)併用
報告者:康 凱翔(広島大学大学院人間社会科学研究科院生)
今年度の集会は,センター創立50周年という節目を迎えた記念すべき年となり、対面(+オンライン配信)にて11月25日開催された。
今年度は、IDE大学協会第53回中国四国支部セミナーも兼ねる形で、「激動期の高等教育―将来像と課題―」を題し、未来社会が予測困難な時代における高等教育と社会環境のあり方について、研究発表や討議を行なった。
吉田香奈准教授(広島大学准教授/IDE大学協会中四国セミナー実行委員)の総合司会のもとで、冒頭に当センターの大膳司教授(IDE大学協会中四国支部常任理事)から、本集会開催にあたっての趣旨説明とともに、激動する社会を乗り切る人材育成が、高等教育機関の教育・研究活動に期待されていると投げかけられた。
続いて、馬本勉教授(広島県立大学/IDE大学協会中四国支部実行委員)および当センターの黄福涛教授の司会のもとで、四名の講演者が登壇し、各国の対応や日本の大学の取り組みについての基調講演が行われた。
まず始めに、越智光夫氏(広島大学学長)からは、激動期における広島大学の取り組みを紹介し、中央教育審議会大学分科会の議論を踏まえた日本の未来を牽引する大学の在り方について論じられ、特に日本の大学の研究論文数の減少、教員研究時間の確保等日本の科学技術力の低下に関して問題提起がなされた(なお、越智学長は録画によるご登壇)。
続いて、Jung Cheol SHIN氏(ソウル大学教授)により、高等教育の歴史を振り返り、特に韓国を例として、新自由主義の文脈下で高等教育政策が理想と現実のギャップを埋める努力と困難さについて論じられた。特にShin氏は、複雑化する社会的環境において、高等教育政策の新たな方向性は、管理者のリーダーシップ育成と意思決定プロセスへの学生参加にあると強く論じた。
次に、川嶋太津夫氏(大阪大学教授)は、18歳人口が予想よりも激しく減少する中、2024年度にはついに入試の入学定員が志願者数を上回る、いわゆる「大学全入時代」が訪れ、大学定員充足率の低下と定員割れが多発する大学氷河期が到来すると警鐘を鳴らした。このような変化し続ける時代において、大学において“変わらないもの”がなぜ変わらないのかと問題提起し、議論を展開させた。
そして基調講演を締めくくる形で、吉武博通氏(東京家政学院大学理事長)が最後に登壇され、気候変動・人口減少など大学が直面してきた歴史的現象、自然現象や社会現象を踏まえながら、高等教育政策の動向を整理し、特に研究大学が担う役割が提示された。特に吉武氏が専門とする大学組織・ガバナンスの課題から、教育改革の実現に向けたあるべき組織構造を論じ、ポストコロナ時代で大学が求められるのは「Creativity(創造性)」であると結論づけた。
以上の基調講演をもとに、塚原秀一教授(関西国際大学教授)および当センターの大膳司教授の司会により、佐古秀一氏(鳴門教育大学学長/IDE大学協会中国・四国支部理事)、増田尚史氏(広島修道大学副学長)、大谷幸三氏(広島工業大学教授/IDE大学協会中四国支部実行委員)がコメンテーターとして講演者を囲み、活発なパネルディスカッションが行われた。
本集会を締めくくるにあたり、当センターの小林信一センター長から閉会の挨拶が行われ、激動する世界情勢においては、これまでの伝統的な大学論・高等教育論だけでは十分な議論ができなくなりつつあること、また同時に各大学が現場で直面する課題が益々多くなり、これらへの対応が一層後手になりつつあること等の問題提起がなされた。
このように、コロナ過が続く中、長らく当集会はオンラインを主体とした変速での開催を強いられたが、今年度は対面とオンラインのハイブリッドによる開催に踏み切り、久しぶりの活気と熱気に包まれた会合となり、最後に、温かい拍手の中で研究員集会は幕を閉じた。
なお、研究員集会登壇者の報告書は、今春『高等教育研究叢書』171号として出版される予定です。