2020.5.7掲載
記事概要:新型コロナウイルス感染症の影響に対する感想-ドイツに滞在している広島大学の中国留学生による報告-
留学先:連邦職業教育訓練研究所(Federal Institute for Vocational Education and Training: BIBB)(ドイツ)
報告者:潘 秋静(広島大学大学院博士課程後期)
皆さん、こんにちは。広島大学高等教育研究開発センターで博士課程に在籍している(3年生)潘秋静です。研究課題は、中国の応用型人材育成とその効果の視点から、独立学院の役割と機能を検討することです。この応用型人材育成のための職業教育・訓練に関する研究を遂行する上で、国際的な基準から見てドイツは極めて先進的であると言えます。そのため、2019年の10月30日から、独・連邦職業教育訓練研究所(Federal Institute for Vocational Education and Training: BIBB)に客員研究員として滞在しています。BIBB(連邦職業教育訓練研究所)は600人以上の研究員を有し、職業上の訓練・継続教育領域で研究と開発にかかわる、今日ドイツで最も重要な機関です。この機関は連邦予算で運営され、連邦教育研究省(BMBF)の法的監督下にあります。BIBBでの研究滞在を通じて、有意義な資料・情報が得られ、博士論文の作成に大きく貢献することが期待できます。
しかし新型コロナウイルス感染症が2019年12月から現在まで全世界で猛威を振るっています。そのため、もともと計画していた3月のアメリカでの発表、4月のドイツでのインタビュー調査、5月の台湾と韓国での発表といった研究活動もすべてキャンセルになってしまいました。これまでに無数の悲惨な感染の例が見られ、全人類の敵といえる新型コロナウイルス感染症が一旦全世界に広がってしまうと、誰もが大きなリスクに晒されてしまうことを実感しています。以下では、ドイツにいる日本からの中国人留学生の立場として、新型コロナウイルス感染症の影響に関する所見と感想について報告させていただこうと思います。
(1)ドイツのボンにおけるコロナウイルスに関する様々な対策
3月中旬からドイツでも新型コロナウイルス感染症によって影響を受けるようになりました。下記添付した図1・2に示す情報によると、5月3日まで、ドイツ感染確認人数は16万5610人に達しました。そのうち、治療済み数は12万8839人,死亡人数は6937人に達しています。さらに、毎日のデータの変化からみれば、3月16日前後から感染人の数が徐々に上がっています(図2)。
上記の感染確認の状況の深刻さに伴い、ドイツにおける各州政府、団体、学校、個人が本格的に新型コロナウイルスの危険さを認識し始めています。そこで、新型コロナウイス感染症によるドイツ政府及び各関係者の対策について、知り得る限り、表1のように整理してみました。
表1 ドイツのボンにおけるCOVI-19に関する予防施策と情報
発表日・期間 | 施策 |
3月16日—4月19日 | 州政府から幼稚園、小学校、中学校が停学、大学の入学時期が延長などを規定する |
3月18日—5月11日 | BIBBがテレワークを提唱する |
3月16日から4月27日まで | スーパーなどの店以外、レストラン店内営業、映画館、美術館などの不必要な営業を禁止。レストラン、コーヒショップの持ち帰りは可能。買い物、室外活動の場合、人々の距離は1.5m-2mの間隔を空ける。 |
3月20日 | 企業に対する救済政策が公布された。250億ユーロの予算が用意される。www.wirtschaft.nrw/corona |
3月29日 (第1回目) | 駐ドイツ中国大使館がボン大学の学友会を通じて、ボンにいる留学生に各人10枚のマスクを配布する |
4月11日(第2回目) | 駐ドイツ中国大使館がボン大学の学友会を通じて、留学生に各人10枚の医療用マスク+1枚KN95+除菌布巾を配布する |
4月20日—7月16日 | ボン大学がZOOMを使って、E-campusとonline 教育を行う https://www.uni-bonn.de/the-university/coronavirus-information/information-for-students |
4月27日から | 買い物や公共の場に外出する場合、マスクあるいは鼻と口を隠す代替品をかけることを規定。違反すると罰金される。 |
注:個人と周りの関係者からの情報によって作成。
ドイツ各州政府の姿勢も、最初の無関心から政策規制へと向かい、人々の経済社会活動を制限するようになりました。例えば、私が滞在しているNordrhein-Westfalenに所管されるボンの様々な情報を事例として見ると、表1に示すように、3月16日より、学校の閉鎖からその後営業制限、そして各会社・企業のテレワークといった施策が講じられました。更に、4月27日から、銀行、スーパーに行く場合、マスクをつけることも義務化になりました。訪問先のBIBBも3月18日から5月11日、自宅で仕事することを推薦することになりました。また、ボン大学に留学している友達から大学の対応方法を確認して見ると、入学延期、学校閉鎖、online教育という三つの対策を出していました。日本のような、経済支援、指導教員に健康チェックを報告、駐ドイツ中国大使館のマスク配布、ストレス解消のオンライン支援といった対応策はあまり見られないです。対応方法に対して、アジアとヨーロッパとの差異が生じている原因は、おそらく「マスクへの認識」と同じなロジックと理解したほうがいいかもしれません。すなわち、マスク予防法より、自己免疫治療法の方がドイツ人には高く自覚されているようです。規制より、自由・自覚のほうが重要だと考えられているといってもよいと思います。ここでは、伝統・文化・習慣が異なるため、それぞれの有意差を比較するつもりはないですが、アジア人として、留学生として、対策方法について、やはりアジア流の対策が、無いより何かあったほうが安心するというのが現状かと思います。
(2)この半年間、私自身の気持ちの変化について
ドイツに滞在していた半年間で、私の状況と気持ちに二度変化がありました。一度は、1月中旬から2月末ぐらい、中国国内の家族・友人を心配している気持ちです。もう一度は、3月中旬から今まで、中国・日本の家族・友人によって心配される立場になってしまったということです。私のような立場の逆転換を感じている他の留学生も少なくないように思います。
1)2019月1月〜2020年3月15日:心配をかける立場
周知のように、1月に入ってから、中国において深刻な新型コロナウイルス感染症の影響があり、1月23日、中国政府が武漢を閉鎖するということを決めました。このように、トップダウン式の政策規制により、武漢のみならず、都市から村まで中国全土で人命を救う防疫活動が行われました。この際、中国の感染状況は全世界から注目を浴びました。多くの国・地域が、中国に対して入境不可や入境制限の政策を出しました。2月には、本当に「怖い」と感じ、国内の家族・友人を心配し始めました。毎日、WeChat(中国でよく使用されているSMS)を通じて連絡し、状況を確認しました。それと同時に、日本の友達、同窓会に依頼し、マスクを中国の親友、母校に送り支援しました。その後、76日後、無数の命、経済活動を犠牲したことで、防疫の効果が出てきました。4月8日、武漢の都市封鎖が終了しました。現在では、状況がコントロールされ、中国国内の人々の生活も段々正常化になっているようです。ちょっと安心しました。
2)2020年3月16日から現在まで:心配させる立場
一方、3月中旬から、状況が逆転しました。前述したドイツでの感染人数からわかると思いますが、私も「心配する」立場から、中国・日本の家族・友人に「心配される」立場に転換しました。そして、それから中国・日本の家族・友人がそれぞれマスク・メガネなど必要な予防品をボンまで送ってくれました。皆さんからの「中国に戻ったほうが安全ですよ」とか「出かけた時、必ずマスクをかけてください」とか「必要でない場合、必ず家にこもってください」といった言葉もよく耳にするようになりました。実は、3月中旬前、ドイツ現地の人々は新型ウイルス感染症を全く心配していませんでした。当初の予定通り、カーニバルのような大きな集合活動を行っていました。私を含む周りの友達は、新型ウイルス感染症がドイツで激しく広がるとは思ってもみませんでした。一方、毎日感染者が増加する数字を見ると、私は「まずい、怖い」と感じて、自分自身のことを心配し始めました。このように、3月18日から、訪問先であるBIBBの薦めに従って、家で勉強したり論文を書いたりしています。4月から、出かけることがあれば、周りの目を気にせずマスクもかけています。周知のように、新型ウイルスが中国でひどく広がった1月から2月ぐらいの時、マスクをかける中国人や他のアジア人が滞在国で差別されたり、暴力を振られたりしているニュースがありました。このように、マスクをつける行為に対してだけではなく、道を歩くだけでも心細く感じていました。私のように感じる他の中国人やアジア人は、少なくないと思います。ところが現在、ドイツ人にもマスクの重要さが認識、正当化され、ベートーヴェンの像を始めとするドイツの人々も着用することになりました。4月27日には、私も堂々マスクをかけて出かけれるようになりました。
(3)感想
新型ウイルス感染症より、人間性の闇のほうがより怖いと感じています。幸いなことは、この世界で、暖かい心を持っている人々が圧倒的に多数ということです。例えば、個人レベルから見れば、BIBBの同僚達、周りの友達、日本の先生達などがいつも優しく支えてくれます。国家レベルでは、例えば、1月から2月までの日本政府、国民、団体から、中国への支援がありました。「山川異域、風月同天(さんせんいきをことにすれども、ふうづけてんをおなじうす)」を代表とする様々な暖かい詩が本当に中国人の心に深く感動として刻まれています。
災害の前に、死の神様の前に、今まで追求した金、物、地位、権力は本当に重要でしょうか。いつかこれらの身外のものは瞬間的に水の泡になるでしょう。今回の世界を巡る大きな厄災を通じて、生きている人々が他人の悲劇を痛感しながら、人類と自然の関係、教育、人間性、国の意義、健康の重要性、家族と仕事のバランスなどに対して、再度認識を改めるとともに、これまでのあり方に対して反省していく必要があるでしょう。でも、とりあえず、生きていてよかったです。