『「9月入学」に対するTwitter上の反応は?』:RIHE高等教育研究資源ナショナルセンター レポートシリーズ

「9月入学」に対するTwitter上の反応は?(3)
RIHE高等教育研究資源ナショナルセンターレポートシリーズ 

 

2020.8.3掲載

報告:高等教育研究資源ナショナルセンター・研究分析チーム
(分析主担当:中尾 走(広島大学大学院博士課程後期在籍、
日本学術振興会特別研究員(DC2)))

 

■「#9月入学賛成」「#9月入学反対」は何をツイートしたのか

「#9月入学賛成」「#9月入学反対」のツイートの中身を探るため,前回は共起される単語から解釈を試みた。しかし,実際には解釈をすることが難しい側面があった。今回は,ツイートの単語に着目するのではなく,トピックと呼ばれる単語の背後にある潜在的な意味のカテゴリ(奥村2015)を分析対象とする。単語ではなくトピックを分析対象とする理由は,ツイートの中身をより大きな分類で捉え,どのような内容のツイートが多く,または少ないのかということを明らかにするためである。単語よりも大きな分類で捉えることで,類似の内容のものをまとめて一つにすることが出来るため,解釈がしやすくなるのではないかと考えられる。

例えば,「10万」「給付」という単語が含まれていれば特別定額給付金についてのツイートであり,同じトピックとして括ることができるだろう。もう一つ例を出せば,「都庁」「赤」「レインボーブリッジ」という単語が含まれていれば,東京アラートについてのツイートであり,同じトピックとして括ることが出来るだろう。このような分類は,一つ一つのツイートを細かく見ていけば可能かもしれないが,大量のデータを人力で分類していくのは大変な作業である。そこで今回は,トピックモデルという手法を用いて分類を行う。分析上では,便宜的に全てのツイートを10個のトピックに分類できると設定した。そして,抽出された10個のトピックが「#9月入学賛成」「#9月入学反対」のツイートにどの程度含まれているかを図で示したものが以下である。横軸の中心である0を基準として,右側に寄れば寄るほど,「#9月入学賛成」のツイート内で多く含まれていたトピックであり,逆の左側に寄れば寄るほど「#9月入学反対」のツイートに多く含まれていたトピックであることを示している。

この図を見てわかるのは,中心の0付近にほとんどのツイートが集まっているということである。つまり「#9月入学賛成」「#9月入学反対」で出現する確率が大きく変わるトピックというのはそれほど多くないということである。それぞれ出現確率が0.1以上のものだけを取り上げると、「#9月入学賛成」のツイート内で出現確率が高いのは,トピック3だけであり、「#9月入学反対」のツイート内で出現確率が高いのは,トピック10とトピック2だけである。それ以外は,「#9月入学賛成」「#9月入学反対」でトピックの出現確率が大きな変化がない。

では,次にそのトピック3とトピック10,2がどのような内容のものであったのかをそれぞれ見ていく。それぞれのトピックに含まれる確率が高い単語を並べた表と,そのトピックの出現確率が高いツイートが以下の通りである。

 

■いつまでツイートされ続けたのか?

これまでは、2020年5月11日から2020年5月18日までの期間に収集したデータを対象に分析を行なってきた。しかし、2020年5月27日に「9月入学見送り」という見出しの報道が流れたことにより、9月入学に対するツイートは徐々に少なくなってきたのではないだろうか。そこで、「9月入学」に関するツイートがどの程度減少したのかを定量的に把握することを目的に、2020年5月31日までのツイートを収集した。すべての期間のツイートを「9月入学賛成」と「9月入学反対」についてそれぞれ合計すると、「#9月入学賛成」が23538件、「#9月入学反対」が75394件であった。日付ごとに、それぞれ「#9月入学賛成」と「#9月入学反対」のツイート数を示したものが以下である。

 

 

18日までの分析では、「#9月入学賛成」と「#9月入学反対」のどちらも16、17日あたりをピークにツイート数が少なくなっているが、それ以降のツイート数を合わせた今回の図を見ると、「#9月入学反対」の方だけ20、21日に再び大きなピークがあることが分かる。これは、16、17日あたりに生じたピークよりも非常に大きなピークであることが分かる。この日に「#9月入学反対」のツイートのみ大きなピークが出現した理由として考えられるのは、2021年秋からの導入を具体的に検討した新小学1年生の区切り方について具体的な二つの案が出てきたと報じられたからであろう。この時、報じられた二つの案とは、①2021年9月に一斉に9月入学にするという一斉実施案と②2021年度から1年に1ヶ月ごと入学時期をずらし、5年後の2026年度に完全な9月入学導入を行うという段階実施案である。このような具体的な案が報道されたことを受けて、実際に9月入学が導入されるのではないかということに対して、意見を表明するために「#9月入学反対」というツイートが伸びたと考えられる。

■おわりに

コロナ禍という未曾有の事態に、教育界では様々な施策や対応が繰り出された。これが政策レベルの対応となると、たちまち世論はツイッターを始めとしたSNSを通じた反応を展開し、それがまた政策形成へも大きく影響する—SNSは、こうした世論と政策の連鎖を形成し得たと言って良いが、匿名化された,ともすると剥き出しの感情がまき散らされる「つぶやき」を“世論”として捉え、政策に取り込むのは注意が必要であろう。奇しくもEBPMすなわち「証拠に基づいた政策形成」が強く求められる状況にもある中で、こうしたSNSは、政策形成の根拠になるのかどうかを慎重に見極める必要がある。本稿はそのための先駆となれば幸いである。

※分析で使用したデータを使用したい方は,以下の連絡先までご連絡ください。
広島大学大学院 中尾走(ran-nakao(at)hiroshima-u.ac.jp)