第44回研究員集会開催報告(10月27日開催)

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記事概要: 第44回研究員集会開催報告

開催日時: 2016年10月27日(木)13:00~18:05

開催場所: 広島大学学士会館レセプションホール

報告者: 村澤 昌崇准教授

 今年度は諸般の都合により、平日木曜日の半日を使って行われた。前半は第1部として慶應義塾大学の菊澤研宗先生による基調講演、後半は第2部として広大高教研の大場・村澤、共愛学園前橋国際大学学長の大森昭生先生、佐賀大学の村山詩帆先生による論点提起がなされた。これら講演・論点提起をうけ、コメンテーターには同志社大学の太田肇先生を迎え、最後に総括討論が行われた。

 基調講演の菊澤先生からは、大学におけるリーダーシップ・組織の在り方を論じる上での理論となりうるお話をいただいた。具体的には組織の経済学における「組織の不条理」「取引コスト」論等の理論を紐解きながら、人々が個々人にとって合理的に行動(機会主義的行動)すればするほど、組織にとって不条理な結果が導かれることが示された。また、近年注目される「ダイナミック・ケイパビリティ」論を援用し、組織における危機意識の共有と既存の知識・技術・資産等の再編活用の有効性が示された。最後に、経済合理による損得勘定のみで組織運営を行った結果、原発事故のような安全や倫理が犠牲になったケースを挙げながら、リーダーには哲学的価値観が必要だと提言され、損得勘定以上に「善悪判断」を併せて行う高次の判断が求められると説かれた。

 続く論点提起では、第1に、高教研の大場・村澤により、大学におけるガバナンス改革(自律性拡大、執行部の機能強化、外部者の参画)および連動するリーダーシップの在り方に関する現況の整理と理論・先行研究の紹介、そしてデータ分析の結果が披露された。総合すると、大学のミッションや特性に応じた多様なリーダーシップがあり得るにも関わらず、権限をトップに集中させる現行の大学ガバナンス・リーダーシップ改革は、人間の「完全合理性」を無意識に前提としており、慎重な検討が必要であることを示唆した。

 第2報告では、共愛学園前橋国際大学の大森昭生学長による、自大学のリーダーシップの現状が報告された。当大学では教職一体ガバナンスを特徴とし、一人ひとりが経営者としての自覚を持つことが徹底されるという。さらに「学職一体・学職協働」「地学一体」として、学生・地域も大学スタッフの一員と見なした一体的な大学運営に特徴をもつ。そのような環境でのリーダーシップの特徴は、年齢・性別・職位に関係無く現場主義的にリーダーを選び、リーダーを選んだ現場の教職員全員が、選んだことの責任感を芽生えさせることを促進する点にあることが示された。選出されたリーダーは、現場の意見を最優先し、調整、困難事案、責任を引き受けるべきだと主張された。大森学長はスローガン「Small is Power」を掲げており、小規模大学の特徴を生かした大学運営とリーダーシップの成功例と言えよう。

 第3報告では、佐賀大学の村山詩帆先生により、先行研究のリーダーシップ論が精緻に整理・紹介された。さらにリーダーシップに関する論点として「集権化によりリーダーシップとフォロワーシップがどのように変化するのか」「大学の外部の利害や制度がガバナンス改革を通じて大学に内部化される」「オルタナティブはあるのか」という問題提起がなされた。

 これら講演・論点提起を踏まえ、同志社大学の太田肇先生からは、それぞれに対してのコメントが寄せられた上で、ご専門の組織論の立場から大学の特徴が指摘された。すなわち、大学はプロフェッショナルの集団であり、「遠心組織」(注:組織の外に飛びだそうとする、主体的、自律的、現場主義)と仮定できる。つまり、プロ=専門家としての教員が個々別々に主体的に活動する組織である。この組織の特徴は、組織を構成する教員が大学と専門家集団(=学会)という2つの異なる集団へ帰属しつつ、彼らの期待する報償が主として専門家集団からのものであり、大学からの正・負のインセンティブによるコントロールが効かないところにあるという(例:学会に表彰されたら嬉しいが、大学から表彰されてもあまり嬉しくない。大学の役職から外される方にインセンティブが高まる、等)。このような特性を持つ大学では、構成員の隠れたホンネを汲み取り、改革へと繋げるリーダーが支持され成功する、あるいはフォロワーの成熟度に応じて放置(リーダーシップを発揮しなくても良い:リーダーシップの代替理論)してもよいのではないか、という提案がなされた。

 以上の論点を踏まえ、フロアを巻き込んだ議論では、
・大学におけるリーダーシップのドライバーはどこなのか。政府にとっては大学の窓口を一本化したいという意味においての学長のリーダーシップ(≒権限集中)であり、政府と大学との関係におけるリーダーシップである。つまり大学内におけるリーダーシップではないのではないか。そうすると、学長のリーダーシップとは一体何だろうか?
 という本質的な問いが投げかけられた。さらに同様の趣旨で、
・2012年の中教審答申(いわゆる質的転換答申)に至るまでのガバナンス・リーダーシップ改革は、政府の見地から大学の機能分化を進めるための最適方策として、学長に権限を集中させることに主眼があり、大学内部を意識したものではない。故に本研究員集会の問題設定と政策の意図は基本的にはズレているが、純粋に大学組織の学術的研究を進めるという意味においては、好ましく歓迎すべきだ。
というコメントも寄せられた
 さらに、
・こうしたガバナンス・リーダーシップ改革は、国立を対象としたものであり、そもそも私学はとばっちりを受けている。
というコメントも寄せられた。
 さらには、
・様々な水準のリーダーシップがあるはずであり、水準を分けて議論するべきではないか。
という問も投げかけられた。

 最後に、議論をさらに焚き付けるという狙いで、
・『リーダーシップ』というテーマ自体が、ありきたりで古く廃れている。こんなテーマ設定をしていること自体高等教育研究の敗北だ。
という挑戦的なコメントも投げかけられた。
 この最後のコメントについては、研究員集会の今後の在り方を問い直すという意味で貴重なご意見として受け止めつつも、そもそも我が国における大学のガバナンスやリーダーシップに関する学術的な研究蓄積に乏しいことに端を発しての研究会企画であると申し開きをしつつ、おそらくは余所では「ありきたり」なリーダーシップ論が、高等教育界隈ではそれさえ十分議論されてこなかったこと自体が反省材料だという認識を抱いた。

 いずれにせよ、企画の狙い通り、様々な理論や経験に基づいたリーダー論が多角的に供出されたことは、今後の高等教育の組織・経営研究に一石を投じたことになったのではないだろうか。

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越智光夫学長の学長挨拶の様子

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基調講演:菊澤研宗教授(慶應義塾大学)

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論点提起1:大場淳准教授(広島大学)

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論点提起1:村澤昌崇准教授(広島大学)

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論点提起2:大森昭生学長(共愛学園前橋国際大学)

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論点提起3:村山詩帆准教授(佐賀大学)

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コメント:太田肇教授(同志社大学)

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パネルディスカッションの様子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第44回研究員集会の会議記録は来年度、高等教育研究叢書(広島大学高等教育研究開発センター編)にて刊行予定です。 研究員集会の様子はTwitterを活用して随時リアルタイムで更新されました。ハッシュタグ(#RIHE #広島大学)やアカウント(@rihe_hiroshima)にてご覧いただけます。

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